スマホの普及で顔の湿疹が増えた?【アトピー発症機序理論5】

 皮膚科専門医である山本綾子先生の

 

『アトピー発生機序理論』

 

の第5回目をお伝えいたします。

 

 

山本先生は、アトピー性皮膚炎の発生と身体の使い方に深く結びつきがあると考えられており、その理論をもとに患者さんの治療にあたっておられます。この考え方は、アトピー性皮膚炎で辛い思いをしているたくさんの患者さんに知っていただきたいです。また、アトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患に対するリハビリテーションを学んでいく理学療法士や作業療法士にとって、知らなければいけない重要な考え方だと強く感じます。

 

山本ファミリア皮膚科 駒沢公園

皮膚科専門医 山本綾子先生

 

 

第5回目は、

 

『スマホの普及と顔の湿疹』

 

 

 

 

 

顔の湿疹の原因は?

 

 前回頭の脂漏(しろう)性皮膚炎、頭の湿疹は、首の後ろがつぶれているのが原因と解説しました。今回は、患者さんの悩みの種になりやすい、顔の脂漏性皮膚炎や湿疹について考えていきましょう。

 

 脂漏性皮膚炎は頭皮だけでなく、顔にも生じます。顔の脂漏性皮膚炎がひどい人や顔の湿疹を繰り返す人は、「首の谷折り線」が首の前にあります。首の前のシワが異常に目立つ人やあご下から首との境目にざらつきがある人は、この「首の前の谷折り線タイプ」であるといえます。

 

 

 

 ちなみにこの首の前の谷折り線タイプ、スマートフォンやタブレット端末が普及してから、増加傾向にあるようです。電車でスマートフォンなどの画面を見ている人々の姿勢を観察してみると、画面を胸の下のほうに置いている人と、顔の高さ近くまで持ち上げている人の2種類がいます。首の前の谷折り線ができてしまうのは、視線を下に向けすぎている前者のタイプです。顎が胸にくっついてしまうほど、首の前に隙間がなくなっているのですね。首をそれほど深く折り曲げているわけですから、その部分がうっ血しても不思議ではありません。

 

 まるで首を絞められたかのように深いシワ。年齢によるものだと思うかもしれませんが、幼児でも顔の湿疹がひどい場合は、深いシワが首の前にあるということがよくあります。幼児が親より深いシワ……となると、さすがに年齢のせいとは言えないですよね。

 

 

 前回、解説しましたが、首だけをぐっと前に曲げて顎を胸につけるように下を向くことは、首の本来のカーブ(前にゆるやかに凸)と逆で、非常に身体に負担がかかる姿勢です。首の筋肉は正常の位置からずれることにより硬くなり、首の血管をつぶしてしまいます。

 

頭部の静脈(Wikimedia Commonsより

 

 

 血液は心臓から送り出され、静脈を通って心臓へ戻ってきます。四肢の静脈は逆流を防ぐために、弁が発達していますが、頭部の静脈には弁がありません。これは頭は心臓より上にあり、重力に従って逆流することなく心臓へ血液が戻りやすいからだと考えられます。しかし「谷折り線=深いシワ」として認められるほどに、ぐっと無理に首を曲げてしまうと、血液が心臓に向かってスムーズに戻れなくなり、溜まってしまうのですね。

 

 顔の脂漏性皮膚炎も、頭の脂漏性皮膚炎と同様に、症状がひどい場合は、お腹の谷折り線がしっかりとあります。お腹が潰され、腸管でのビタミンB2、B6産生が不足して、皮膚がオイリーになるのは、顔も頭も同じ仕組みなのです。

 

 

 

うっ血があると皮膚炎になりやすい!?

 

 さて前回から、首の前や後ろがぐっと押さえつけられるために「うっ血(=血が溜まる)」が起こると、皮膚がカサカサしたり、湿疹ができたりすると解説してきました。

 

 この「うっ血があると皮膚炎になりやすい」という現象は、実は皮膚科の教科書にも、ある有名な病名でしっかりと記載されています。

 

 「鬱滞性皮膚炎(うったいせいひふえん)」。皮膚科医でなくても医学部では必ず習う、どんな医師も知っている有名な病名です。「下肢静脈瘤や静脈血流の鬱滞を基盤にして、下腿に湿疹や色素沈着を形成するもの」と、教科書では説明されています。

 

 

 体内の血液は重力に従って、体の下のほうに溜まりやすい状況にあります。だから、夕方になると足がむくみやすくなるのですよね。正常であれば、下肢静脈に溜まった血液も下肢の筋肉を動かすことによって、筋肉のポンプの作用で心臓に戻し、下肢静脈に血液が溜まりすぎる状態にはなりません。しかし、立ち仕事(特に動かず立ったまま)が非常に長いなどの条件により、下肢に溜まった血液を心臓に戻す力が弱まり、下肢に湿疹ができるというわけです。

 

 

 鬱滞性皮膚炎は下肢に限定された病名です。しかしこの病気の本態は「血液が溜まって、その部位にとどまっていると、湿疹になりやすい」ということになりますね。下肢と首で部位は違えども、これは「首でうっ血があると顔や頭の湿疹になりやすい」ということと同じですね!

 

 血液は心臓から送り出され、きちんと心臓に戻ってくるからこそ、皮膚や臓器は健康な状態で保たれるようにできています。それなのに、きちんと戻るべきところに戻らず、皮膚で溜まったままになっていたら、皮膚が健康でなくなり、カサカサしたり、湿疹になったりしてしまう。何だか、当たり前のことに思えてきませんか?

 

 湿疹は赤いのですが、この「赤」が何の色かといえば、血の色なんですね。湿疹は「血液が溜まっているから赤く見える」のです。実際、皮膚の病理組織学では、「紅斑(=皮膚の潮紅)」は「毛細血管拡張」であると教科書にも書かれています。スムーズに血液が流れずに溜まってしまうと、「血液を入れている毛細血管が広がる=毛細血管拡張」となるわけです。

 

 湿疹と言えば、赤くてカサカサしているもの。そう誰もが知っているこの現象を「なぜ赤い?」「なぜカサカサする?」と掘り下げて考えることで、湿疹を根本的に治療するヒントが得られるのです。

 

 

 

顔や頭の湿疹がひどい人は、歩き方に要注意!

 

 前回からここまでで、顔や頭の脂漏性皮膚炎、繰り返す湿疹では、首の位置に問題があるということを解説してきました。下を向きすぎていたり、首の後ろがつぶれていたり、どちらの場合も問題が生じます。

 

 では、顔や頭の湿疹は、首の位置や姿勢だけを改善すれば完全に治るのでしょうか?

 

 顔や頭の湿疹が非常にひどいケース(特に真っ赤になるほどの症状の人)では、「足先が冷える」と訴える人が非常に多いです。アトピー性皮膚炎で、顔の症状はとてもひどいのに、下半身はほとんど湿疹がない、というケースも同様です。

 

 実はこれ、更年期の女性の「のぼせ冷え」と同じような症状で、「手足が冷えるのに、顔がほてる」状態なのです。

 

 このような人たちに共通するのは、「歩き方に問題がある」ということです。正しい歩き方をしていないため、下半身に十分量の血液が回らず、上半身とくに顔にばかり血液が溜まって、顔が真っ赤になったり、顔が火照ってしまうのですね(歩き方に関しては連載2回目参照)。

 

 顔や頭の脂漏性皮膚炎や慢性湿疹に悩んでいたら、是非、首の位置だけでなく、歩き方にも注意してみてください。

 

 

赤ちゃんの脂漏性皮膚炎も首の位置の問題!?

 

 ここまでは大人の脂漏性皮膚炎についてお話してきました。赤ちゃんの脂漏性皮膚炎と大人の脂漏性皮膚炎では、臨床経過も違いますし、赤ちゃんでは生理的に皮脂分泌が多いというベースがあり、全く違うもののように思われがちです。

 

 しかし、ひどい脂漏性皮膚炎の赤ちゃんをよく観察してみると、首が詰まっているということがわかります。もちろん、赤ちゃんは大人に比べ首が短く、埋もれがちです。

 

 

 上記2枚の写真は別の赤ちゃんです。どちらの場合も、これくらい首が埋もれてしまうということは、首を絞められているのとほとんど変わらない状態だと言っても過言ではないと思います。

 

だから、こんなにも顔が真っ赤になってしまうのです。このような場合は、首が埋もれるのを軽減してあげる体操をしばらく続け、首が埋もれないような抱っこや授乳の仕方などをすることによって、首の周りに隙間ができるようになり、湿疹ができなくなります。

 

 別物と思われがちな赤ちゃんの脂漏性皮膚炎と大人の脂漏性皮膚炎。身体の大きさや身体の特徴が年齢で違えども、背骨があるという基本的身体構造は同じですから、同じような原因で症状が出ていることも、当然かもしれませんね。

 

 

湿疹が片側だけにできるのはなぜ?

 

 ところで、湿疹がいつも身体の右側だけにできるとか、いつも左側だけにできるという経験はないでしょうか? たいてい湿疹は左右両方にできることが多いのですが、片方ばかりにできてしまうことがあります。なぜでしょう?

 

 ヒントを示す写真がここにあります。

 この赤ちゃんは、顔の右半分ばかりに湿疹ができるとのことで受診しました。しばらく赤ちゃんの動きを見ていると、首をぐっと右真横に(真正面から右にほぼ90度)向けました。そんなにも真横を向けるなんて柔らかいなぁと思うかもしれません。

 

 ところがこの赤ちゃん、左方向を向こうとすると、右ほどしっかり真横を向かず、真正面から左に60度程度しか回りませんでした。つまりこの赤ちゃんは、首がいつも右下側にねじれているため、左側にはあまり回らなかったのです(これを証明するかのように、右後頭部がつぶされたような頭の形になっていました)。

 

 首がいつも右下を向いているということは、首の右側を通る血管を潰してしまうということですね。だから、右半分ばかりうっ血しやすくなって、顔の右側ばかりに湿疹ができていたのです。

 

 「繰り返す湿疹は、なぜAという部位にばかりできるのか?」。

 

これには、アトピー性皮膚炎であっても、脂漏性皮膚炎であっても、必ず解剖学的な原因が隠されているものなのです。

 

ところが今まではほとんどの皮膚科で「なぜだろうね?」で済ませられてきました。この疑問をていねいに、年齢や性別、体質の違いを超え、私、山本綾子が提唱する「アトピー発症機序理論」でさらに解説していきたいと思います。

 

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以下、アトピー発生機序理論の他のリンクを掲載しておきます。

 

【アトピー発生機序理論】

 

(1)冬のカサカサ肌・かゆみ肌は悪い姿勢が原因だった!?

(2)その歩き方で大丈夫? 脛・踵が荒れる原因とは

(3)腹筋を鍛えるとアトピーが治る!?

(4)フケじゃなかった!脱毛にもつながる脂漏性皮膚炎のナゾ

(5)スマホの普及で顔の湿疹が増えた?

(6)“自然派ハンドクリーム”にも落とし穴!? 「手湿疹」の原因とは

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【著者】

山本綾子(やまもと あやこ)

 

山本ファミリア皮膚科 駒沢公園 皮膚科専門医 

 

 金沢大学医学部卒業後、金沢大学皮膚科学教室入局。多くの重症アトピー性皮膚炎の治療経験から、湿疹の出る部位と姿勢・歩き方の関係に気づき、「アトピー発症機序理論」と「運動療法」を導き出す。現在、「治らない病気」とされてきたアトピー性皮膚炎を「根治できる病気」として、全国から集まる患者を、改善・根治に導き、アトピー撲滅をライフワークとしている。 

病院外でも、アトピー発症機序理論の勉強会・運動療法のワークショップを実施。これまでに東京をはじめ日本全国で開催。 

オフィシャルブログは「皮膚科専門医 山本 綾子 のアトピー撲滅プロジェクト


 

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